※本記事は、個人情報保護のため、地域・時期・物件の状況など一部を変更・抽象化して記載しています。依頼者・地番・関与した弁護士名等は一切公開していません。
この記事の結論(先にお伝えします)
「亡くなった方に相続人が一人もいない」――そんな不動産は、放置されたまま誰の手にも渡らず、固定資産税も滞り、近隣に迷惑をかけ続けることがあります。
こうした「相続人不存在」の不動産を適法に売却・換価できる立場の人が、相続財産清算人(そうぞくざいさんせいさんにん)です。家庭裁判所が選任します。
そして、ここが最大のポイントなのですが――
- 相続財産清算人は、選任されただけでは不動産を勝手に売れません。
- 相続財産である不動産を売却するという「処分行為」には、家庭裁判所の許可(権限外行為許可)が別途必要です(民法953条が同法28条を準用)。
私たち株式会社LSK(農転.com運営)は、千葉県内で、この相続財産清算人の方からご相談を受け、提携する宅地建物取引業者とも連携しながら、家庭裁判所の売却許可を経て決済まで完了した案件に関与した実例があります。本記事では、その流れと実務上の勘所を、一般化したうえでお伝えします。
相続人不存在の不動産、残置物だらけの空き家、調整区域・農地が絡む案件など、「普通の不動産会社では断られた」案件こそ、私たちの専門領域です。
ご相談の経緯
最初のご相談は、ある弁護士の方からでした。
その弁護士は、家庭裁判所から相続財産清算人に選任されていました。亡くなった方(被相続人)には、
- 配偶者は既に離婚しており不在(元配偶者は相続人になりません)
- 子・孫もいない
- 両親など直系尊属も既に亡くなっている
- 兄弟姉妹も、その代襲相続人(甥・姪)もいない
という状況で、法定相続人が一人も存在しない(相続人不存在)ケースでした。
被相続人の財産の中に、千葉県内の土地・建物が残されていました。建物は長年放置され、室内には大量の残置物。さらに、固定資産税の負担も続いており、清算人としては「できるだけ早く換価(現金化)して、債権者への弁済や清算手続を進めたい」というご意向でした。
ところが、地元の不動産会社数社に相談したものの、
- 残置物が多すぎて手が付けられない
- 相続財産清算人という立場・手続きを理解している会社がない
- 調整区域・古い建物で「売れる気がしない」と敬遠された
という理由で、なかなか前に進まなかったそうです。そこで、特殊案件を扱う当社にお声がけいただきました。
💡 ポイント:相続人がいないからといって、財産が自動的に国のものになるわけではありません。まず相続財産清算人が選任され、債権者・受遺者への弁済や特別縁故者への分与などの清算を経て、それでも残った財産が最終的に国庫へ帰属します。
相続財産清算人とは
「相続財産管理人」から名称が変わりました
ここで用語を整理します。以前は「相続財産管理人」と呼ばれていた立場ですが、2021年(令和3年)の民法改正により、2023年(令和5年)4月1日施行で「相続財産清算人」へ名称が変更されました。
注意したいのは、改正で「相続財産管理人」という名称そのものが消えたわけではない点です。改正後の民法では、
- 相続財産清算人(民法952条)…相続人不存在の場合に、財産を清算(債権者への弁済・換価・残余の国庫帰属等)するために選任される人
- 相続財産の管理人(民法897条の2など)…相続財産を保存することを目的とする、別制度の管理人
という、目的の異なる二つの制度が併存しています。本記事のテーマである「相続人がいない不動産を売って清算する」場面で登場するのは、前者の相続財産清算人です。
相続財産清算人の主な役割
相続財産清算人は、いなくなった相続人に代わって、おおむね次の職務を担います。
- 相続財産(不動産・預貯金など)の管理
- 相続人の捜索に関する公告手続への対応
- 債権者・受遺者への弁済
- 必要な財産の換価(売却)
- 特別縁故者への分与に関する手続
- 清算後に残った財産の国庫への引継ぎ
つまり、相続財産清算人は「最終的に財産を整理し終える」ことまでを任務とする立場です。不動産の売却は、その清算プロセスの一部に位置づけられます。
公告期間――「すぐ全部終わる」わけではない
相続財産清算人が選任されると、家庭裁判所は「清算人を選任した旨」と「相続人がいれば一定期間内に権利を主張すべき旨」を公告します。この期間は6か月を下ることができません(民法952条2項)。
旧制度では公告を3段階で順次行う必要があり、権利関係の確定まで最低10か月以上かかっていましたが、改正によって公告を並行して行える運用になり、最短で約6か月程度に短縮されました。
それでも、選任から清算完了までには相応の時間がかかります。「相続財産清算人がついた=即日すべて解決」ではないことは、関係者の皆さまにあらかじめご理解いただきたい点です。
なぜ不動産売却に「家庭裁判所の許可」が必要なのか(本記事の核心)
ここが、この案件のもっとも重要なポイントです。
相続財産清算人は、選任されただけでは、相続財産である不動産を自由に売却できるわけではありません。
不動産の売却は、財産の現状を維持する「保存・管理」を超えた「処分行為」にあたります。処分行為を行うには、家庭裁判所の許可(権限外行為許可)が必要です。
この根拠は、
- 民法953条が、不在者財産管理人に関する民法28条を準用していること
にあります。条文上、清算人の権限は原則として「保存・利用・改良」の範囲にとどまり、それを超える行為(=不動産の売却など)には、個別に家庭裁判所の許可を得なければなりません。
実務上の流れ
実際の本案件では、おおむね次のような順序で進みました。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| ① 売却活動 | 当社が調査・方針整理を担い、提携宅建業者と連携して買主候補を探す |
| ② 条件の合意 | 買主・価格・条件が固まる |
| ③ 権限外行為許可の申立て | 清算人が、家庭裁判所に「この条件で売却したい」と許可を申し立てる |
| ④ 家庭裁判所の許可 | 裁判所が内容を審査し、売却を許可 |
| ⑤ 決済・引渡し | 許可を得たうえで売買契約を実行し、所有権移転・引渡し |
つまり、買主が決まってからも「裁判所の許可」というワンクッションが入るのが、通常の不動産売買との決定的な違いです。買主側にも「許可が下りることを条件とする」旨を理解してもらう必要があり、ここを丁寧に説明できるかどうかが、この種の案件の成否を分けます。
住宅ローン(抵当権)が残っている場合
なお、対象不動産に住宅ローンの残債があり抵当権が設定されている場合は、売却代金からの弁済や抵当権の抹消、債権者(金融機関)との調整が別途必要になります。本案件の主眼ではありませんが、清算人案件では債権者対応もセットで生じうる、という点だけ押さえておいてください。
現地の状況――残置物が大量に残された空き家
ご依頼後、まず現地を確認しました。
長く人の住んでいない建物で、室内には家具・家電・衣類・書類などの残置物が大量に残された状態でした。こうした物件は、
- 内見の段階で買主候補が敬遠しやすい
- 残置物の中に重要書類(権利証・契約書など)が紛れていることがある
- 撤去費用が読みにくく、売却価格に直結する
といった難しさを抱えます。
当社では、清算人と連携しながら、残置物の取り扱い方針(誰が・いつ・どの費用負担で撤去するか)を整理し、現状有姿(現状のまま)での売却を前提に、提携宅建業者と連携して買主を探す方針としました。残置物の処理を売主側で完結させてから売るのか、買主に引き受けてもらう前提で価格調整するのか――この見極めが、こうした物件では非常に重要です。
なぜ一般の不動産会社では難しいのか
清算人案件が一般の不動産会社で敬遠されがちな理由を、実務の視点から整理します。
- 手続きの特殊性:売主が「個人」ではなく「家庭裁判所が選任した相続財産清算人」。契約書の当事者表記、必要書類、決済の段取りが通常と異なる。
- 裁判所許可という不確定要素:買主が決まっても、許可が下りるまで契約が確定しない。一般の買主には説明と納得が必要。
- 残置物・老朽化・調整区域・農地などの「訳あり」要素が重なりやすく、価格付けや販路に専門知識が要る。
- スピード感のミスマッチ:清算人は手続きを着実に進めたいが、一般仲介は「いつ売れるか分からない」状態を嫌う。
当社(農転.com/株式会社LSK)は、千葉県内で農地・市街化調整区域・所有者不明土地・破産管財・相続財産清算人案件といった「専門性の高い不動産」のご相談に継続的に対応してきました。だからこそ、こうした手続きと現場の両方に対応できます。
売却活動――「許可前提」を前面に出した販売
売却活動(提携宅建業者と連携して実施)では、最初から「家庭裁判所の許可を前提とした売買である」ことを買主候補に明示しました。隠して進めると、許可の段階でトラブルになりかねないためです。
具体的には、
- 物件の現状(残置物あり・現状有姿)を正直に開示
- 「相続財産清算人が売主であり、最終的に裁判所の許可が必要」と事前説明
- 価格は、撤去費用や立地条件を織り込んだ現実的なライン設定
としました。結果として、「手続きの特殊さを理解したうえで購入できる買主」に絞ってアプローチできたことが、後の早期成立につながりました。
約1か月で買主が決定――ただし「全部完了」ではありません
販売活動の結果、買主候補が決まるまで、約1か月でした。特殊案件としてはかなり早いほうです。
ただし、ここは正確にお伝えします。
- 「約1か月」は、あくまで買主が決まるまでの期間です。
- そこから家庭裁判所への権限外行為許可の申立て・許可を経て、はじめて決済(所有権移転・引渡し)に進みます。
- さらに、相続財産清算手続の全体には前述の公告期間(最短でも約6か月程度)があり、債権者への弁済や残余財産の処理は、その手続きの中で進められます。
つまり、「1か月で何もかも片付いた」わけではない点にご注意ください。買主決定は早くても、清算手続全体は法定の期間を要します。当社が担ったのは、この長い手続きの中で、調査・方針整理・関係者調整を通じ、提携宅建業者と連携して「適正な買主候補を早期に見つけ、裁判所の許可を得て決済まで導く」部分です。
最終的に、家庭裁判所の売却許可を得て無事に決済へと至り、清算人の手続きを前に進めることができました。
この案件から学んだこと
実際に相続財産清算人案件を手掛けて、改めて整理できたポイントです。
- 清算人がついても、不動産売却には家庭裁判所の許可が要る。 「清算人=自由に売れる」という思い込みは禁物です。
- 買主への事前説明がすべて。 「許可が前提」という構造を理解してもらえる買主を、最初から狙うこと。
- 残置物・現状有姿の扱いを早期に確定させる。 ここが曖昧だと、価格も決済もぶれます。
- 時間軸を正しく共有する。 買主決定は早くても、公告期間など法定の手続きはショートカットできません。
- 最終的に残った財産は国庫へ。 特別縁故者への分与などがなければ、清算後の残余財産は最終的に国庫に帰属します。だからこそ、清算人は「適正な手続きで・適正な価格で」換価する責任を負っており、専門性のあるパートナーが必要になります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 相続人がいない家は、誰のものになりますか?
相続人が一人もいない場合でも、その瞬間に国のものになるわけではありません。まず家庭裁判所が相続財産清算人を選任し、債権者・受遺者への弁済や、生前に被相続人の世話をしていた人など特別縁故者への分与といった清算手続を行います。それでもなお残った財産が、最終的に国庫に帰属します。
Q2. 相続財産清算人がいれば、不動産はすぐ売れますか?
清算人が選任されても、それだけでは売れません。相続財産である不動産の売却は「処分行為」にあたり、家庭裁判所の許可(権限外行為許可。民法953条・28条)が必要です。買主が決まってからも、裁判所の許可を経て決済する流れになります。また、清算手続全体には最短でも約6か月程度の公告期間があり、「即時にすべて完了」とはなりません。
Q3. 相続放棄した家の管理義務はどうなりますか?
相続人全員が相続放棄をすると、結果的に「相続人不存在」となり、相続財産清算人の選任が必要になる場合があります。放棄した人の管理に関する義務の範囲は、改正民法(2023年4月施行)で整理されました。現に占有している財産については一定の保存義務が残りうるなど、ケースごとの判断が必要ですので、放置せず早めに専門家・家庭裁判所への相談をおすすめします。
まとめ+ご相談窓口
相続人が誰もいない不動産は、「放置すれば誰かが何とかしてくれる」ものではありません。相続財産清算人の選任と、家庭裁判所の許可を得たうえでの売却・換価という、正しい手続きを踏んで初めて前に進みます。
そして、こうした案件は――
- 手続きが特殊で、一般の不動産会社では敬遠されがち
- 残置物・老朽化・調整区域・農地など「訳あり」要素が重なりやすい
- 買主探しと裁判所許可の両面で専門知識が必要
という理由から、対応できる会社が限られます。
千葉県内で、相続財産清算人案件・破産管財・農地・市街化調整区域・所有者不明土地などでお困りなら、農転.com(株式会社LSK)にご相談ください。
弁護士・金融機関・相続関係者の皆さまからのご相談も歓迎しております。実際に裁判所の許可を得て決済まで導いた実務経験をもとに、現実的な売却プランをご提案します。
免責事項:本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の事案に対する法的助言ではありません。相続財産清算人の選任、家庭裁判所の許可、相続放棄の管理義務、税務上の取扱いなどは、事案によって判断が異なります。実際の手続きにあたっては、弁護士・司法書士・税理士等の専門家、および管轄の家庭裁判所にご確認ください。掲載内容は執筆時点(2026年6月)の法令に基づいており、その後の改正等により取扱いが変わる可能性があります。